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イベント情報

日本大学文理学部人文科学研究所第15回哲学ワークショップ 「心の理解をアップデートするーー知覚・言語・情動ーー」 [2020年02月25日]

開催日:2020年3月18日

会場:日本大学文理学部3号館5階3505教室(https://www.chs.nihon-u.ac.jp/access/)

プログラム
第一部:発表および内容確認のための質疑(14:00-16:15)
休憩(16:15-16:30)
第二部:質疑応答とディスカッション(16:30-17:30)

提題者および題目
太田 陽(名古屋大学)「情動についての消去主義の帰結ーLisa Feldman Barrettの心理構成主義ー」
次田瞬(日本学術振興会PD 名古屋大学)「文化進化論と言語」​
佐藤亮司(名古屋外語大学)「予測誤差最小化理論とその周辺」

要旨
太田陽「情動についての消去主義の帰結ーLisa Feldman Barrettの心理構成主義ー」
「悲しみ」・「怒り」・「恐怖」といった情動カテゴリーをもちいた説明は、心理学・哲学・日常的な実践いずれの領域でも多く見られる。これら説明の前提にあるのは、このような情動カテゴリーを自然種とみなすPaul Ekmanらの基本情動説である。他方で、Lisa Feldman Barrettらが近年提案する心理構成主義は、これら情動カテゴリーは共通のメカニズムをもたない不均一な実例の寄せ集めであり、そのようなカテゴリーを指す語彙は科学的な心理学から消去すべきであると主張する。現在のところ、経験的証拠だけでは、この2つの理論間の論争には決着がつかない。本発表では、まず、心理構成主義を採用した場合に、さまざまな現象がどう説明されるのか、詳しく述べる。その上で、基本情動説にもとづく説明と心理構成主義にもとづく代替の説明とを、科学哲学における理論的徳についての議論に照らして比較検討する。結論として、心理構成主義が基本情動説に劣らぬ理論的徳をもつことを示す。

次田瞬「文化進化論と言語」​
近年、文化進化を重視する論者によって、種普遍的と思われる人間のさまざまな認知能力の発達に関する遺伝的説明への批判が展開されている(Henrich 2016; Heyes 2018)。彼らによれば、人間の幼児の心と類人猿の心の違いは微妙であり、人間の洗練された認知能力は本能というより、遺伝子レベルの進化からある程度自律した文化進化によって形成されたガジェットである。そして、彼らの批判対象となる遺伝的説明の中には、チョムスキー以来多くの認知科学者の支持を集めてきた文法能力の生得主義も含まれる。たしかに、そこには生得主義を支持するとみなされてきた従来の議論に再考を促す材料があると思われる。脳局所性や臨界期に関する比較的新しい発見や、集団の規模や緊密性が少なくとも言語のいくつかの側面(語彙や音素など)に及ぼす影響に関する研究は、文法能力が例外的に非言語的な要因の影響を免れた自律性をもつという見解に疑問を投げかけるかもしれない。本発表では、こうした傾向に逆らって、文化進化を重視する論者が取り上げるのを避けているデータに目を向け、生得主義を支持する従来の議論(例えば、刺激の貧困論法、言語的普遍からの論証など)は打ち倒されているというには程遠いことを示す。

佐藤亮司「予測誤差最小化理論とその周辺」
「一言で言えば、脳内で起こりうる変化は全て予測誤差の抑制のために変化する」(Friston, 2008) 「(予測誤差最小化理論の)四つの主張は、知覚、行為、身体化、そして人間の経験の本性を理解するための、待望の新しい統合された枠組みの端緒を提供する」(Clark, 2013)このような大きな理論的な展望を持った理論が現在認知科学を席巻している。ロンドン大学のカール・フリストンらの研究グループを中心にして展開されているこの計算神経科学的な理論には、「自由エネルギー原理」「予測誤差最小化」「予測コーディング」「ベイズ脳仮説」と言った様々な概念が関連づけられているが、ここでは予測誤差最小化理論と呼んでおこう。この理論は様々な心的現象の理解を統一的な視座から可能にするだけでなく、心を持つ存在の構成にも大きな役割を果たすだろう。(この理論的な源流の一つは機械学習におけるHintonらの仕事にある。)本発表では、この理論に関連する様々な概念の間の違いに留意しながら、全体的な枠組みを(主に)概念的なレベルで比較的丁寧に解説したのちに、その射程について具体例を交えて検討したい。

*新型コロナウィルス感染症の感染拡大の状況によっては、中止の可能性があることはご承知おきください。また、少しでも体調に不安がある方は出席を見合わせるなど、感染の拡大を防ぐためのご協力をお願いいたします。

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最終更新日 - (c)2006 科学基礎論学会
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