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イベント情報

三田哲学会講演会「心の科学と哲学の最前線」のご案内 [2018年10月29日]

開催日:2018年11月11日、14:30~17:00

会場:慶應義塾大学 三田キャンパス 第一校舎 108教室

*参加自由・事前予約不要

(会場へのアクセスは下記ウェブページをご覧ください。
https://www.keio.ac.jp/ja/maps/mita.html
会場はキャンパスマップ9番の建物の一階にあります。
当日は東門が閉まっていますので、正門からお入りください。)

【講演1】 
「『人間の心の進化』研究の哲学的検討:説明の質の問題と適応主義の『引力』をめぐって」
講師:網谷 祐一(東京農業大学)

【講演2】 
「意識の進化的起源を探る」
講師:鈴木 大地(自然科学研究機構)

 上記二名の講師を迎え、心の科学と哲学の最新の研究成果を紹介します。
 網谷祐一氏は、生物学および心理学の哲学の専門家として広く知られており、昨年『理性の起源――賢すぎる、愚かすぎる、それが人間だ』(河出書房新社)を出版して注目を集めています。今回の講演では、同書の内容にも関わる「進化心理学」をめぐる哲学的議論が詳しく検討されます。
 鈴木大地氏は、新進気鋭の進化発生学者として活躍しながらも哲学に深い興味を抱き、昨年ファインバーグとマラットによる近刊書の邦訳『意識の進化的起源――カンブリア爆発で心は生まれた』(勁草書房)を公刊しています。今回の講演では、同書の内容を簡潔に紹介し、批判的検討を加えながら、心の科学と哲学の統合の必要性について議論を喚起します。
 ぜひ皆様お誘い合わせの上、ご来場くださいますよう、ご案内申し上げます。

【講演1の概要】
 本講演では「人間の心の進化」研究への哲学者による批判について考える。
 ここでは主に二つの批判的研究を検討する。一つは進化心理学の説明の質にかかわる批判である。この批判にはいろいろなバージョンがあるが、一つの形は進化心理学の説明を進化生物学一般で採用される説明と比較し、過去のヒトの集団の遺伝的構成などが知られていないことなどをもって、前者の説明は後者に比べて決定的にサポートが欠けているとする(Richardson, 2007)。この批判が深刻なのは、進化心理学に対してしばしばとられる擁護――進化心理学は完全に確証されているとは言えないにしても前進的な研究プログラムであるので研究者は進化心理学を受け入れて研究する理由がある――が通用しない可能性があることである。というのは、もしこの批判が正しければ、個々の進化心理学の仮説は(進化生物学一般の仮説に比して)確証されていないことになるが、もしそうなら研究プログラム全体を前進的とは呼べなくなるだろうからである。本発表ではこの批判に対して進化心理学側としてはどういう応答が考えられるかを、進化心理学を発見法的研究プログラムとして考えるゴールドフィンチのアイデア(Goldfinch 2015)を軸に検討してみたい。
 もう一つの批判はE・ロイドからのものである。ロイドはThe Case of the Female Orgasm (2009)で、ヒトの女性の性的オーガズムにかかわる進化(心理)学的研究を批判的に検討した。彼女によると、そうした研究はおしなべて性的オーガズムを適応としているが、その説明の多くは性科学の知見を無視するなど問題が多い。ロイドの批判は性的オーガズムの事例に限定されていて体系的に進化(心理)学を批判するものではないが、しかし進化的にヒトの心理を研究する際に注意すべき事項を指摘している。

【講演2の概要】
 私たちの意識とは何なのか、どのようにして生まれたのか。これは長い歴史の中で人類が取り組んできた一大テーマだ。そして現代でも多くの人々の関心を惹きながらも、いまだに解明されてはいない。『意識の進化的起源』でファインバーグとマラットが取り組むのは、意識のなかでも原初の意識、その進化的起源の解明である。この原初的意識は、本書では主に「感覚意識」と呼ばれている。さまざまな感覚を知覚し、その心的イメージ(あるいは表象、クオリア)を構築することが原初的意識の進化の核心だったと著者らは考えているからだ。そしてカンブリア爆発で、脊椎動物の祖先がカメラ眼を獲得して外的世界の視覚イメージを構築したことが、感覚意識の進化の鍵だったと著者らは主張する。
 意識の進化については、これまで数多くの著作が出版されている。しかしそのほとんどが自我や理性といった高次の意識に注目しており、本書で扱われるような原初的意識を論じたものはごくわずかである。本書は哲学的アプローチ、神経生物学的アプローチ、進化的アプローチの三つを組み合わせ、各分野の知見を総動員することで、それぞれのアプローチの欠点を補い合い、原初的意識の進化について統一的な説明を試みる。これが可能になったのは、近年の神経科学や認知科学の発展だけでなく、澄江動物群の発見をはじめとする古生物学の進展、分子生物学的な技術を使って生物の発生過程を比較し、進化を明らかにする進化発生学の勃興に帰するところが大きい。
 外的世界に関する感覚だけでなく、情感もまた原初的意識の重要な一側面である。本書ではこの情感意識についても、動物行動学的な知見を援用しつつ論じる。さらには、私たち脊椎動物の意識だけでなく、昆虫類や頭足類(イカやタコ)の系統でも独立して意識が進化した可能性にまで議論がおよぶ。このように本書では、意識の多様な側面を明らかにするとともに、さまざまな系統の動物を比較することで、より一般的な意識の理論の構築が試みられている。
 本講演では『意識の進化的起源』の概要を説明したうえで、意識の問題を明らかにする際の科学と哲学の統合の必要性について考察する。

お問い合わせ先:田中泉吏(慶應義塾大学文学部哲学専攻) tanaka@flet.keio.ac.jp

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最終更新日 - (c)2006 科学基礎論学会
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